テニスの試合の長さは、一見単純な質問のように思えますが、その答えには多くの要素が関わってきます。数分から数時間にわたることもあり、テニスの試合の所要時間はある意味で謎です。
テニスの試合の基本的な所要時間
テニスの試合には決まった長さはありません。これは、バスケットボールやサッカーとは大きく異なります。
テニスの試合は40分で終わることもあれば、5時間かかることもあります。
3セットマッチでは、典型的な試合時間は1.5~2.5時間です。
5セットマッチでは、所要時間がさらに広がり、2時間から5時間の範囲となります。
記録に残る最短のプロの試合は、1969年に行われた28分の試合で、選手間の実力差が大きかったために実現しました。
最長の試合は驚くべきものでした。2010年のウィンブルドンでは、ジョン・イスナーとニコラス・マフートの試合が11時間5分にわたり、3日間にわたって行われました。
試合の所要時間に影響を与える要因
選手のスタイルが最も直接的な要因です。
サーブ・アンド・ボレーを得意とする選手は、試合のペースが速く、ポイントは数回のショットで終わることが多いです。一方、ベースラインで守備を重視する選手は、長いラリーを繰り広げることが多く、その分試合時間が長くなります。
ナダルやジョコビッチの試合は4~5時間かかることが多い一方で、フェデラーの試合は速いリズムで進行し、通常は2~3時間で終了します。
コートの種類も重要な要因です。
芝のコートはボールのスピードが速く、試合は比較的短くなります。クレーコートはボールが遅くなり、ラリーが長くなるため、試合の時間が長くなります。ハードコートはその中間です。
フレンチ・オープンの平均的な試合時間は、ウィンブルドンより約30%長いです。
スコアの接戦具合も試合時間に大きな影響を与えます。
スコアが6-0や6-1のように一方的であれば、試合は40分で終わることもあります。しかし、各セットがタイブレークに入ると、試合の所要時間は予測不可能になります。
2018年ウィンブルドン準決勝では、アンダーソン対イスナー戦の第5セットが26-24となり、そのセットだけで3時間近くかかりました。
異なる大会での試合時間の違い
グランドスラム大会の男子シングルスは、5セットマッチで行われます。
平均的な試合時間は3~3.5時間で、決勝戦は4時間を超えることが多いです。
2012年のオーストラリア・オープン決勝では、ジョコビッチとナダルが戦い、5時間53分の歴史的な長時間決勝となりました。
ATPツアーの大会では、主に3セットマッチが採用されています。
平均的な試合時間は約2時間で、決勝戦は少し長くなることが多いですが、3時間を超えることはほとんどありません。
WTA女子の試合も3セットマッチで行われます。
平均的な試合時間は1.5~2時間で、男子よりもブレイクポイントが多いものの、全体的には短めです。
アマチュアの試合は、試合時間がより柔軟です。
アマチュアの多くの試合では、セットを4ゲームで決めるなど、短縮された形式が使われることがあります。また、ノーアド・スコアリング(ノーアド得点方式)を採用することも多く、試合がスピーディーに進みます。
そのため、こうした試合は1時間ほどで終わることもあります。
特別なスコアリングルールが試合時間に与える影響
ノーアド・スコアリングは、テニスで伝統的に使われているスコアリング方法です。
決定的なセットでは、選手が2ゲーム差で勝たなければならず、タイブレークはありません。このため、マラソンマッチが多くなります。
先ほど触れたイスナー対マフートの試合では、第5セットのスコアが70-68となり、そのセットだけで8時間11分かかりました。
タイブレークシステムの導入により、試合時間は大幅に短縮されました。
セットが6-6になった時、タイブレークが行われます。7ポイントを先取し、2ポイント以上の差をつけた選手がそのセットを勝ち取ります。
現在では、全てのグランドスラム大会で最終セットに何らかの形でタイブレークが採用され、無限に長い試合時間を防いでいます。
ノーアド・スコアリングはダブルスの試合でも一般的に使用されます。
デュース時にレシーブ側の選手がコートのどちら側で受けるかを決め、その後のポイントで勝った選手がゲームを取ります。この方法で、試合が最短7ポイントで終わることもあります。
ショートセット形式は、エキシビションマッチや特別なイベントで使用されます。
この形式では、セットを勝つためには4ゲームを取る必要があり、もしスコアが3-3になるとタイブレークが行われます。このため、試合が最短30分で終了することもあります。
プロ選手に求められる体力
5時間の試合を戦うのはどんな感じでしょうか?
プロ選手はコート上で3~5キロメートルを走ることがあります。心拍数はしばしば150回以上になります。
ジョコビッチは、5セットの試合後に体重が3~4キロ減少することがあると述べています。
これは体力的な負担の一部にすぎません。毎ポイントで集中力が要求され、少しの気の緩みが試合を失わせる可能性があります。
回復も一つの大きな挑戦です。マラソンマッチの後、選手は通常48時間で完全に回復する必要があります。
グランドスラム大会では、早いラウンドで過度にエネルギーを使うと、後半のラウンドでパフォーマンスを維持するのが難しくなることがあります。
観客にとってのマラソン
観客にとっても、5時間の試合を観るのは試練です。
ウィンブルドンでは屋根がないため、雨で試合が遅れることがあり、試合が数日間にわたって行われることもあります。
2004年には、フレンチ・オープンでファンたちがほぼ6時間も座り続けて試合を観ました。
しかし、本当のテニスファンにとっては、その予測できない展開こそが魅力です。テニスの魅力はその不確実性にあります。次のポイントがどうなるのか、試合がいつ終わるのかは分からないのです。
夜の試合は特に試練です。USオープンの夜のセッションは、よく午前2時や3時まで続きます。2022年にはアルカラスの試合が午前2時50分に終わりました。
放送の課題
テニスの試合時間が予測不可能であることは、放送においても困難を伴います。
サッカーの試合は90分で、ハーフタイムがあるため、放送局はスケジュールを立てやすいです。しかし、テニスは違います。
2時間の放送枠が1時間で終わることもあれば、4時間続いても試合が終わらないこともあります。
ESPNでは、テニスの試合がオーバータイムに入ると、その後の番組に影響を与え、ファンから不満の声が上がったことがあります。
現在、多くの放送局では「柔軟なスケジューリング」を採用しており、余分な時間を確保し、試合が早く終わった場合にはハイライトや選手のインタビューを放送するようになっています。
ルール改革の探求
試合時間を管理するために、テニス界では新しい形式を模索しています。
タイムド・マッチはその一つの実験です。試合時間を例えば2時間と決め、そのタイムリミットが過ぎた時点で先にリードしていた選手が勝者となります。
しかし、この考え方はテニスの性質を変えるものであり、伝統主義者から強い反発を受けています。
ファスト・テニスは別のアプローチです。小さなコート、低いネット、低圧のボールを使って試合をスピードアップさせる方法です。
NextGen ATPファイナルでは、いくつかの新しいルールが導入されました。例えば、4セットマッチ、ノーアド・スコアリング、サーブ・クロックなどで、試合時間が大幅に短縮されています。
サーブ・クロックは現在広く普及しています。選手は25秒以内にサーブしなければならず、遅れると警告が出ます。これにより、選手が試合を故意に遅らせることを防ぐ手助けとなります。
アイコニックな長い試合
テニスの歴史には多くの伝説的なマラソン試合があります。
2008年のウィンブルドン決勝、フェデラー対ナダルは、しばしば史上最高のテニスの試合と見なされます。彼らは4時間48分戦い抜き、ナダルが夕方にトロフィーを手にしました。
2009年のウィンブルドン決勝では、フェデラーとロディックが対戦しました。第5セットは30ゲームにわたる激闘で、フェデラーが16-14で勝ち、15回目のグランドスラムタイトルを獲得しました。
1992年のUSオープンでは、エドバーグとチャンが戦い、試合時間は5時間26分。チャンは試合終盤でほぼ疲れ果てていました。
これらの試合は、選手たちの高い技術だけでなく、試合に対する決意からも、時を超えて名勝負として語り継がれています。
試合時間に関する哲学
テニスの試合時間が不確定であることこそ、このスポーツが魅力的な理由です。
タイムがあるスポーツとは異なり、テニスにはカウントダウンの時計がありません。0-5から7-5で勝つこともあれば、5-0から5-7で逆転負けすることもあります。
毎ポイントが新たなスタートです。この「今に生きる」という考え方こそがテニスの本質です。
ある人は言います。テニスこそが最も人生に似たスポーツだと。次のショットがどうなるか分からないように、明日何が起こるかも分からないからです。
できることは、目の前のポイントに集中することだけです。
未来のトレンド
テニスの試合は今後短くなるのでしょうか?
現在のトレンドを見る限り、その答えは「はい」と言えるかもしれません。若い選手たちはより速く、攻撃的にプレーしています。サーブのスピードは上がり、エースも増えています。
テクノロジーの進化も助けています。新しいラケットにより、選手たちはより強力なショットを打つことができるようになりました。コートのメンテナンスが改善され、ボールのスピードも速くなっています。
一方で、選手の守備技術も向上しています。移動力や予測力、反応速度はどんどん速くなっています。
テニスの未来は、「スピード」と「持久力」の間で新たなバランスを見つけるかもしれません。
ルール改革は続くでしょう。しかし、試合の核心となる精神は変わりません。テニスは常に時間に制限のないスポーツであり続けます。
ある解説者が言いました。「テニスの試合が終わるサインは、誰かが必要なポイント数を取った時です。それまでは、何が起こるか分からない。」
この不確実性こそが、テニスの試合をサスペンスに満ちたものにしています。試合が40分で終わることも、5時間かかることもありますが、テニスコートでの時間はそれぞれ違う意味を持っています。
それは、反応する暇もないほど速いこともあれば、人生について考える時間があるほど遅いこともあります。
これがテニスの真の魅力です。
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